冬の夕空
 7 だいすき
 
 月曜日、お店はやっぱり暇だった。
 時間があると、あの週末のことを思い出して一人で赤くなってしまったりする。
 午後、レオンがやって来た。
「こんちは!」
 いつもどおり明るくて、愛想がよくて、感じがいい。この人が……、人じゃないとは……思えないなぁ。
 思わずじっと顔を見ると、レオンはにやっと笑う。
「なに? 惚れた?」
「え? いえいえいえっ! ごめんなさい」
「そんな全力で否定しなくてもぉ」
「あはは……」
「マリィちゃん」
「はい?」
「これでもう吸血鬼に狙われなくて……ぶっ、あはははは」
 レオンは私の顔が赤くなるのを見て、我慢できないというふうに笑い、そして言った。
「あいつ本当に言ったのか。さすがだ」
 忘れてた……。そういえばレオンに……いろいろ聞いたって言ってたなぁ……。あれはそうだったんだ……。ていうか意味わかんないんだけど……。
 そしてレオンはいつものように「また来るね!」と笑顔で帰っていった。

 夜、仕事が終わり店を出ると、ミシェルに声をかけられた。
「おつかれさま」
「え? どうしたの?」
「待ってた。晩ごはん食べに行こう」
 そう言って私の手をとった。
「手、冷たい」
 私がそう言うと、にっこり笑ってつないだ手を自分のコートのポケットに入れる。私は照れくさくて少しうつむいて笑う。
「ごはん何が好き?」
「わたし? えっと、ハンバーグ……とか」
「僕も好き。行こう」
 そう言って歩き出す。
「ミシェルって普通のごはん食べるんだ。お菓子しか食べないのかと思ってた」
「なんでも食べるよ。おいしいものなら」
「じゃあ、一番好きな食べ物なに?」
「ひみつ」
 ヤモリの黒焼き? とか?
 彼が横から私の目をのぞきこんで言う。
「あ、今いやらしいこと想像した?」
「えっ。ちがうよ、ちがう。全然してないぃ」
「あはは……」
 
 一緒に食事した後、彼は部屋の前まで送ってくれた。私がお茶に誘うと彼は言った。
「あんまり最初からやりすぎると嫌われるらしいから……、今日は帰るね」
「え? いや、そんなつもりじゃ……」
 たぶん……。それに、たぶん嫌わないかも。
「おやすみ」
 おやすみのキスをして扉の前で別れた。
 
 部屋で一人になると自然と笑いがこみあげてくる。
 この部屋で、このベッドで……、ミシェルと……したんだ。
 すごく恥ずかしいけど、すっごくうれしい!
 ミシェルのことがすごく……、すごく大好き!

 窓のほうから物音がして、見てみるとミシェルが立ってた。
「えーっ!」
 私、一人で半笑いのところ見られたかも……。
 たぶん見られた、いや確実に見られた……。
「えへへ」
 と、彼は笑いながら言った。
「確認しにきた」
「確認? なんの?」
「これ」
 彼は私の鎖骨を服の上から指でぎゅうっと押さえる。そして上から少し服を引っ張ってのぞきこむ。
「やっぱり消えそう……。今度は反対側かな……」
 と独り言のようにつぶやく。そして私の顔を見てにっこりと微笑む。
「シャワー借りていい?」
「えっと……。最初からやりすぎると嫌われるとか……」
 私がそう言うと、彼は私の目をじっと見て言う。
「きらい?」
 私は少しうつむいて笑う。そして彼の目を見て答える。
「だいすき」

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written by nano 2008/02/08

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