冬の夕空 プロローグ 土曜の夜、私は教会に行く。 特別な信心があるわけではない。 ただまっすぐ部屋に帰りたくないだけ。 明日は休み。でもどこに行くわけでも、誰に会うということもない。 そんなとき教会の扉は開かれていた。 花街のはずれにあるこの教会は、どんな時間でもどんな人でも迎え入れてくれる。 教会の暖かい光の中、祭壇やステンドグラスをしばらく眺める。 それだけで一人の部屋に帰る寂しさが、ほんの少しだけまぎれる気がした。 いつものように教会の扉をくぐると、祭壇の前に人が立っていた。 黒いロングコートのポケットに手を入れてただ立っている。 金色の髪、背の高い……男の人。 この時間に人がいるなんてめずらしい。やっぱり私と同じような目的の人かな。 私の気配に気づいたからか用が終わったからか、彼は入り口に向かって歩いてきた。 こんばんは、と私が声をかけると、彼は瞳だけこちらに向けて微笑んだ。 とてもきれいな緑色の瞳で。 私は祭壇に手を合わせた。 教会に通うようになって初めてのお祈り。 「もう一度、彼に会えますように」 次のページ 冬の夕空 index 小説 index HOME written by nano 2008/01/30 |