冬の夕空 5 たましいあげる 教会のイスに座り、私は考えていた。 明日も仕事だけど家に帰りたくなかった。 給料が一日遅れた。たった一日だけど、今まではこんなことなかった。やっぱり……、前にミシェルが言っていたように、あの店もう危ないのかな。だとしたら他に働くところを探さなければ。 でも……、ここを離れたくない。 ここにはミシェルがいるから。 彼らもずっとここにいるわけじゃなさそうだけど……。少しでも、一日でも長くいっしょにいたい。 どうしたらいいのかなぁ……、神様……。 「こんなところで寝てたら風邪ひくよ」 声をかけられ、顔をあげるとミシェルがいた。 「起きてます。……いつからいましたか?」 「さあ……、ちょっと前?」 「ぜんぜん気づかなかった……」 私はミシェルの顔を見ながらふと考えた。 そういえば彼は悪魔なのになぜ教会に来るんだろう。 ていうか悪魔といえば……。いや、でも教会でこんな話してもいいのかな……。 ミシェルは私の顔をのぞきこんだ。 「寝ぼけてる?」 「起きてます。あの……」 「なに?」 彼は少し首をかしげて私の話を待った。私は先を続ける。 「たましい」 「ちょっ、ちょっと待て」 突然ハッとした表情に変わり、彼は私の言葉を止めた。彼が少しでもあわてたところを初めて見たので、私はちょっとびっくりした。そして一瞬だけ気まずそうな顔をして、いつもの調子にもどる。 「君がなにを言おうとしたかは知らないが……。たましいあげる、だけは間違っても言うな。いらないから」 「いらないんですか……」 「いらない」 「どうして?」 「……そういうことは聞かない約束をした」 「たましいって何?」 「……」 無視された! よくわからないものだけど、いらないとはっきり言われるとなぜかむかつく。 ていうか、あれって約束じゃなくてお願いじゃなかった? 約束のくちづけをしたから約束なの? なんかずるくない? 「あ、そうだ」 ミシェルがなにか思いついたようにつぶやいた。私の顔を見て言う。 「別のものをもらう」 「別のもの……?」 「うん」 そして彼は少しおもしろそうにフフッと笑った。 「……なに?」 「ひみつ」 「……」 「準備もあるし……、それは今度の土曜日に」 土曜日、ミシェルはちゃんと玄関から来た。 花を持って。 「お花……?」 彼はにっこりと微笑んで私にその花束を差し出した。 「プレゼント」 「……ありがとう」 びっくりしすぎてリアクションを間違えた気がする。 店の隣の花屋さんからときどきお花をもらうので、いちおう花瓶は持っていた。よかった……。 テーブルに飾って眺めてみる。ピンクのバラと白いカスミソウの可愛らしい花束。 「かわいい……」 思わず笑顔になる、というかにやけてしまう。 「うれしい?」 「すごくうれしいです」 「よかった」 そう言って彼もにっこりと微笑む。 「あ、お茶を淹れますね」 そう言って私が立ち上がると彼は私の手首をつかんだ。そして私をぎゅっと抱きしめた。 「マリィ」 「……はい」 「僕のことが好き?」 知っているくせに。 「……好き」 私がそう答えると、彼は片手で私の髪をなで、顔を上げさせた。 少しやさしい瞳で私をじっとみつめる。 うれしいような、恥ずかしいような、幸せなような、逃げ出したいような気分……。 「マリィの処女を僕にくれる?」 ……。 「はい」 声が震えていた。自分の震えている声を聞いて身体も震えてくる。 彼はやさしく微笑んで言う。 「大丈夫。レオンにしっかりやり方聞いてきたから」 ……。 しっかり聞くって何を? どんなことを? あ、わかった。 「レオンがお花を持っていくように言ったの?」 「あはは。わかった?」 ミシェルは楽しそうに笑った。私もおかしくて笑った。そして彼はポケットから何か探し出して、言った。 「これももらってきた」 ……? 「これはなに?」 「コンドーム」 へぇ……。 ミシェルは部屋の電気を消してくれた。これもレオンの指導なのかな? ……よけいなこと考えるのはやめよう。 暗くなると急に静かになったような気がした。ちょっとだけ心細くなる。 「キスしよう」 そう言って彼は私の頬を持ち上げ唇に軽くキスした。 そして私の着ているものをゆっくりと脱がせる。一枚脱がせるごとに唇にキス。下着も全部脱がせて私を先にベッドに寝かせる。裸にシーツの感触が少しひんやりと感じる。 私はブランケットの影から彼が服を脱ぐのを盗み見る。 背中に羽は付いてるのかな……。 彼も全部服を脱いでベッドにもぐりこみ、そっと体重を預けるように覆いかぶさる。 直接肌がふれる感触が、思ったより暖かくて、やわらかくて、さらさらして。 「きもちいい」 私がそう言うと彼は少し笑った。 「まだ何もしてない」 彼の背中に手をまわし、肩甲骨のあたりを探ってみる。あるとしたらこのあたりかな……。 「何か探してる?」 彼は私の両方の手首をつかんで押さえた。そして左手の指から一本ずつ唇でくわえる。歯で軽く噛みながら私の目をじっと見る。 「……なに?」 「そんなこと聞く?」 そう言って彼は私の唇をふさぎディープキスする。 目を閉じて、彼のあたたかくてやわらかい舌がゆっくりと動くのを感じる。 身体の力が抜けていく。 彼がそっと唇を離す。 目を少し開けると彼と目が合う。 恥ずかしくなってまた目を閉じる。 彼は私の耳元から首すじにゆっくりキスする。 「ん……」 気持ちいいのか、こそばゆいのかよくわからないけど、とにかく声が出てしまう。 鎖骨をなぞるように舌をはわせ、鎖骨の下のあたりをゆっくりと唇で吸う。そしてその場所を指でぎゅうっと押す。 「……なに?」 「確認」 「なんの?」 彼は答えないで私の乳首に舌をはわせた。もう片方の乳首も指先でそっとなでる。 「う……ん。んん……」 少しずつため息がもれる。 そして胸の下側からゆっくりとつかむようにして揉む。手の動きに合わせて私の息が荒くなってくる。 「はぁ……。あん……。ん……」 「どんな感じ?」 「うん……。気持ちいい……」 乳首の先を舌でペロペロとなめられると身体がなんとなくふわふわしてくる。 そして顔を上げ、私の唇に軽くキスしてから、ぎゅうっと抱きしめてくれた。 身体全体に幸せな感じがひろがる。 「……ミシェルぅ」 「なに?」 「……なんでもない」 「うん」 彼は私の耳元にチュッとキスする。 そして内もものあたりを手で探る。私の濡れている……そのあたりを彼は指でやさしくなでる。指を少し入れて上下するように動かす。 「んっ……、あっ、あぁ……」 彼は指を奥まで差し込む。 「あぁんっ。んっ、うん……」 奥のほうに指がふれると身体が宙に浮くような感覚がする。彼は中でゆっくりと指を動かす。身体の奥がぎゅうっとした感じになって足が震えてくる。 「んっ、んっ……、うん……、あんっ……」 「気持ちいい?」 「あっ、あっ、うん……、うん……、すごく……」 「ん……」 彼は私の口を開けさせ、舌を入れてキスする。 口の中も……すごくなってる……。 キスが気持ちよすぎ……。 「うぅん……、んん……、ぅん……」 彼は濡れた指をそっと抜いてクリにふれた。そしてまわすようになでる。 「んっ、ぐ……はぁっ! だめっ! それだめぇ!」 私は彼の唇から逃れてあえぐ。 「これだめ?」 「いっちゃうからぁ……」 「ん……。じゃあ……ね?」 そう言って彼は私の右手をとり、彼のものを握らせた。私はどうすればいいかわからないまま、ただそっと握ってみた。 これが……入るんだ……。 何もできないまま彼の顔を見てみると、彼は唇にそっとキスしてくれた。 「ちょっと待ってね」 と言って彼は起き上がりコンドームを付けた。 「これで大丈夫」 彼はにっこりと微笑んで、またやさしくキス。 そして私の濡れているところにそっとあてがう。 どうしよう……。 ついさっきまでうれしかったのに、急に怖くなってきちゃった……。 私は思わず彼の腕をぎゅっと握った。 「だいじょうぶ。身体の力抜いて」 彼がそんなにやさしい声が出せたんだという声でささやいた。 「……はい」 そしてゆっくりと先のほうが入る感触がした。 「あっ。うぅん……」 「痛い?」 「う、ううん。痛くないけど……」 「けど?」 「なんか入ってくる感じ」 「入れるんだよ」 唇にやさしくキス。 「ゆっくり息吐いて」 彼に言われてゆっくり息を吐くと、それに合わせて全部入れられた。 「んっ……! いやぁ……」 「いや?」 いやじゃない。もちろんいやじゃないけど……。 私は頭を横に振った。 「痛い?」 そう、痛い。 うんうん、と私はうなずいた。 「身体の力抜いて。ゆっくり呼吸して」 彼が耳元でささやく。 うまく呼吸ができない。 身体の真ん中に息が止まるようなすごい感覚がある。 「だいじょうぶだよ」 そう言いながら彼は私の耳たぶをくわえる。舌先でそっと耳をなぞる。 「はぁっ。んっ、はぁっ……」 ため息がもれてくる。 息を吐くたびに身体の真ん中にあるすごい感覚が、少しずつ身体全体にひろがっていく。手や足の指の先までに。その感覚に思わず彼の肩をぎゅっとつかむ。 唇にキス。舌をからませたディープキス。 身体の真ん中は痛いんだけど、口の中はやっぱりすごく気持ちいい……。 ミシェルとつながったままキスしてると思うと……、なんかすごい。 身体の中に入ってる……。 彼が唇を離して言う。 「入ってるよ」 「うん……」 「目を開けて」 そういえばずっと目を閉じてた。 ゆっくりと目を開ける。 彼が私をみつめている。 私、ミシェルとつながってるんだ……。 なぜか涙が出そうになる。 目を合わせたまま唇に軽いキスを何度も。 たまらなくなって目を閉じると、また舌をからませてディープキス。 もう唇がひりひりしてくるぐらいキスしてる。 息をもらすたびに身体の真ん中にあるものを感じる。 私、上も下もミシェルとつながってる。 「まだ痛い?」 私の目をのぞきこんで彼が言った。 わからない……。 私が答えられないでいると、彼は少し腰を動かして奥にぎゅっと差し込んだ。 「あっ、あぁ……」 痛い、まだ痛いんだけど……。 それとは違う、それよりもすごい感覚が身体中にひろがる。 彼は私の手を握り、ゆっくりと腰を動かし始めた。 「あっ。はぁっ……、あぁっ……、あんっ……」 動きに合わせて声が勝手にもれる。身体の中から声が。 身体の……すごく中を……、ぎゅうっとつかまれるような。身体の奥を……、揺さぶられるような。 なぜか突然、心細くなってくる。心細くて、不安で泣き出してしまいそうな……。声が震えてくる。 彼がちょっとだけ心配そうに言う。 「痛かった?」 「……ううん」 「どうした?」 「わかんない……。なんか……なんかすごくて」 彼はしばらく私の目をじっとみつめる。 そしてちょっと微笑んで頬ずりする。 「じゃあ続きはまた」 そう言って彼はゆっくりと抜いた。 ちょっとひりひりするような感触が残っている。 そして彼は私を抱き寄せ腕まくらをしてくれた。 髪に指を入れてとかすようにゆっくりとなでる。 夢みたい……。ずっとこのままでいたい……。 「朝までずっとこのままでいてくれる?」 「それが望みならば」 そう言って彼は唇に軽くキスする。 最高……。すごい幸せ! 彼は私の目を見てやさしい声で言う。 「ねえ、これでもう吸血鬼に狙われなくてすむね」 「……」 笑うところなのかな……。 次のページ 前のページ 冬の夕空 index 小説 index HOME written by nano 2008/02/03 |